河内盆祭次第・2項
1項 盆祭の印象
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--この祭りについての詳細説明 --
《盆祭・本番 8月15日》
(平成13年の記録)
1.勢揃い
午後6時30分 観音堂前
- 挨拶。平成13年は「楽」を文化庁の補助金もあって全部新調したので、その披露を若衆頭がした。
組合長、介添、若衆頭、鉦廻し、楽廻し、頭領楽の順に挨拶があった。
- 若衆頭の挨拶。『組合長始め組合の役員衆、若衆の皆さん今晩はご苦労さんです。当年は「日上がり」で、我々4名は若衆頭をおおせつかりました。岡の儀では怪我あやまちの無きようよろしく』
- 頭領楽の挨拶は、この祭りの楽の「東西」すなわち「初めと終わり」を決めるのは頭領楽であることを 宣している。『・・我々4名は頭領楽をおおせつかりました。岡の儀は頭領次第(しだい)でよろしく・・』
- 他の役付き「鉦役」たちも挨拶に必ず「日上がり」で本年この役に着いたことを言う。
- 勢揃いの披露の前には、最初の「大念仏」が演じられる。村中から人々が見学にきている。
2.岡へ上がる
- 観音堂から林道を通って、約1キロほどの隠殿岡の入り口まで、鉦と楽を上げる。
行列の先頭が、初盆家の「キリコ」(笠鉾)、高張提灯、ホラ貝、10個の楽、2つの鉦の順。役員が続く。
3.踊り場へ到着後、鉦と楽・カンコを配置して開始
- 開始の合図は、頭領楽の「ヘイ」の声で「大念仏」が始まる。
- 踊り場での演目は「ナアナア」「オドレ(踊れ)」の2曲で1打ち揚げとする。頭領楽が「跳ぶ」。
3打ち揚げ(頭領6人分)のあと、演目を「オドレ」に切り替えて、六地蔵前への移動を始める。
- 移動する時の楽の位置
←@ACEGI (引き楽)
←BDFH (押し楽)
- ◆引き楽と押し楽とは
- 列の動きは、頭領楽が先頭に立ち、@・ACEGIの楽は、「楽(太鼓)の位置」が自分の後ろにあって引っ張ることになり、 BDFHの楽は、太鼓の位置が自分より前にあって進むことになる。
この場合、列は2列になるが、Bの楽は、決して@の頭領楽の前に出てはいけないこととされている。
- ◆頭領楽「跳ぶ」動作について
- 楽を叩きながら「跳ぶ」のは大変な体力と技術を要する。しかし、楽が跳ぶところに、盆の供養の真髄があると若者たちは
思っているから真剣に跳ぶ。この姿が逞しく美しい。
- ◆『ヘイ』について
- 「跳ぶ」といわれる中で、頭領楽が片足を上げている状態を『ヘイ』という。この間は太鼓も鉦も音を止める。
静寂の状態をつくる。頭領楽はここでの所作を出来る限り大きく見せる。
歌舞伎でいう六法を踏むにあたる大切な見せ場である。
鉦はその状態を崩すよう邪魔をしに行くが、頭領楽はそれに耐える。
帰りは3回の跳びで帰るがこの間の所作も大きな見せ場となる。
4.六地蔵前
- ここからは、「ナアナア」「オドレ」「イリハ(入波)」で、1打ち揚げとなる。 2打ち揚げ(頭領6人分)のあと、「イリハ」に切り替えて、茶屋の婆場へ移動する。
5.茶屋の婆場
- 演目は、「ナアナア」「オドレ」「イリハ」。 1打ち揚げのあと、「オオイリハ」(掛け声を引き延ばす)に切り替えて、五輪塚へ移動する。
6.五輪塚
- 演目は「ナアナア」「オドレ」イリハ」。
- ここでは九鬼佛に対し1打ち揚げ以上。
- 戦没者、初盆の供養は、頭領楽「ヘイ」の時に一時中断して、楽廻しの下が楽の中心へ進み出て口上を述べて 戦没者1打ち揚げ、初盆者1人につき1打ち揚げを行う。
- この後、同じ場で「ねらせ(練らせ)」(オドレの変形)がある。
7.柱松の広場へ移動
- 「オドレ」で引く。この途中で、鉦と楽(太鼓)の揉み合いがある。柱松の広場(六地蔵前)へ帰ろうとする楽を鉦が止め、 それを楽が突破しようと揉む。
- 「マワセ(回せ)」(「オドレ」の変形)で、楽を背負って時計回りに3回、柱松を回る。鉦も3回回る。
- 六地蔵前で、頭領が跳んだあと、「東西」の声で終了。30分ほどの休憩となる。
《火祭り》
30分の休憩の間、人々はそれぞれの自分の墓地に集まり、家から持って来た御馳走(寿司が多い)を広げて、ご先祖様とともに食べて、飲む。盆提灯の明かり、燈明の明かり、線香の香りの中でのまさに宴会である。
- イ…若衆頭tが「タイ」の数える
- 柱松の下で明々と焚き火が燃え盛る。午前0時を過ぎていた。
若衆頭が20、30と「タイ」の数を数え始める。突然、タイを奪おうとして若衆たちが殺到する。若衆頭たちは青竹で 思いっきり ひっぱたく。壮烈な奪い合い。
- ロ…若者たちがタイを投げる
- タイを受け取った若者が1つ2つとタイを「つぼき」目がけて投げあげる。タイがつぼきに入ると群衆の歓声が上がる。
つぼきに火が着く。
- ハ…「つぼき」燃え上がる
- つぼきから爆竹の音が撥ね、鉄砲花火が群衆へ向けて飛ぶ。火炎が上がる。
- 二…旗竿が倒れる
- つぼきが燃え上がるとともに、旗竿に火が移り、やがて旗竹が倒れる。群衆の歓声。
- ホ…柱松を倒す
- 柱松は「つぼき」の下部で「つづ(続)」と呼ばれる輪状の太綱で連結された綱3本で、杭に結ばれているが、「つぼき」に点火した火が最大になるのを見計らって、綱が解かれる。
柱松が西へ向かって倒れる。大歓声。叩きつけられた柱から、地に火炎が這う。若者たちが消火に駆けつける。
柱松が倒れて、火祭りはあっという間に終わる。クライマックスは一瞬にきて一瞬に去る。
《観音堂でのしょうろう送り(精霊送り)》
8月16日午前1時 観音堂
「柱松」 の行事が終わった一行は、すぐに観音堂へ降りて、そこで最後の「大念仏」を披露する。
これを「しょうろう送り」という。1打ち揚げされ、最後に「とうざい(東西)」と大声を上げて、すべてが終了する。
そこで若衆頭は、組合長にすべて行事が終了したことを報告する。
さらに、「柱松下ろしの頭」に鉦打ちの上より2名を任命して、引き継ぐ。
任命された「柱松下ろし頭」はこの仕事の免除者の決定もする。頭領楽は昔も今も免除されている。
柱松下ろしの時刻は、午前9時、中老10人と15日の出合いを免除された楽打ちが行う。
《おおかんじょう(大勘定)》
8月16日(祭りの翌日)公民館
朝9時ころから、鉦役8人が集まって、祭り費用の集計を行い、収支を合わせる。その合計を「がくいり(楽要り)」といい、それを全組合員数で割って「いりか(要り価)」を計算し、すぐに「下役」が、村中を1軒づつ回って集金する。本年は1軒につき1万円であった。このところ毎年、ほぼ9千円〜1万円程度。全費用は100万円ほどになる。この集金を断ったり、遅延する家はないという。
★《「大念仏」に使ったもの》
- 1.楽(がく…太鼓) 10張 欅づくり
- 「刳り抜き胴締め太鼓」…太鼓の皮が鋲止めになっていない。鼓のように紐で締めてある。
平成13年3月に新調。古い楽は海の博物館へ寄贈。但し「一番楽」だけは、河内公民館に保管。
- 2.楽撥ち(がくはち) ホウの木製
- 寸法…直径3寸厚さ1寸2分の丸い頭部に1寸径で長さ1尺3寸2分の柄を付ける。
- 3.鉦(かね) 2個 8寸 15貫目
- 現在の鉦は、上鉦72.3キロと下鉦72キロ
- 「若連中記録簿 明治27年」
- ・鉦破損のため新調 昭和3月の例
一…金一〇五円 一貫目に対し七円の相場
一…金 四四円七〇銭 古潰し一貫目三円
一…金 六〇円三〇銭 製作代
一…金 三八円九〇銭 諸雑費
総合計 九九円二〇銭 (購入額)
- 4.シンモク(振木) 鉦叩き 藤製
- 毎年「鉦役」は山へ入って適当な藤(フジ)を探して製作する。
- 5.カンコ(小太鼓) 2個
- 6.羽織・袴
- 若衆頭4人、鉦廻し2人、楽廻し2人の8人が着用する。 ほかに、介添も着する。頭下は不定。
- 介添は「タイ」を火付けの直前に若衆頭に渡す役があり、それまで保管する重要な役割。
- 7.じばん(襦袢)
- 楽打ち(楽じばん)、鉦打ち(鉦じばん)が着用する法被(ハッピ)で、これを着ていない者は楽も鉦も打つことが許されない。
- 8.キリコ 初盆の家が戒名をかかげる笠鉾
- 9.高張提灯 「河内地下」の墨書がある。 2丁
- 10.ホラ貝 2個
- 「若連中記録簿 明治27年」」 に記載あり。
- 明治32年旧7月
- 一…金 二円五〇銭 ホラ貝二ツ買求メ候
- 昔は「触れ」や「先導」の時に吹いたと思われる。
★《「火祭り」に使ったもの》
- 1.柱松 杉 10メートルほどの丸太 節の多いもの。
- 「明治4年 定」には、「火柱 長さ 4間半」とある。
- 2.つぼき 柱松のほぼ先端部につける、半円錐状の麦ワラ製の壺。
- 燃えやすくするため、麦ワラを外側とし、内にシキビを詰める。
麦ワラの部分に近年は、爆竹や飛び散る花火を仕掛ける。
- 3.綱
- 柱松を、東、南、西で支える太い綱。地の方は杭に結び付け、柱の方は太い綱の輪を3個繋いだもので縛っている。
- 4.旗と旗竹
- 青竹で13.5メートル。
- 「明治4年 定」には
- 扇 3尺3寸
はた丈ケ 9尺 はバ金尺
うちわ 2尺口
- とあり、竹の長さはない。また、ムカデは「はた」と書かれている。
- 5.タイ
- 「しょうろう箸」を作る「オガラ」の束。端に「長石」を縛り付け、投げ易くしている。
正式には100個でいいが、近年は150個くらい作る。
☆これらの寸法仕様については、若衆頭が引き継いでいる「万代」の帳箱(帳面の入った箱)にある「隠殿岡 大念佛 火柱拵之控」には、年により柱松の長さや「旗」の大きさの指定が異なって書かれている。それによると年とともに僅かずつだが大きくなる傾向がある。
※このコンテンツは鳥羽市浦村町にある「海の博物館」館長 石原義剛さんに執筆していただいた文章を元に作成しました。
1項 盆祭の印象
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